お金の基本/第 5 回(全 12 回)
銀行が貸した 80 万円は、誰のお金? 預金が貸し出しで生まれる仕組み
貸すことで預金が生まれる仕組みと、その限界、預金保険を知る

銀行に預けたお金は、金庫にしまってある。そう考えると、銀行がお金を貸す仕組みは少し不思議です。自分の残高は減っていないのに、借りた人もお金を使える。パン屋さんがオーブンを買う場面で、その謎を追ってみましょう。
銀行に 100 万円を預けています。その銀行がパン屋さんに 80 万円を貸しました。「私のお金から貸したなら、残りは 20 万円?」と思うかもしれません。
でも、自分の残高は 100 万円のまま。パン屋さんの口座には、新しく 80 万円が入ります。誰かの残高を減らさずに、使える預金が増えたのです。
その 80 万円は、どこから来たの?
実は、誰かの 80 万円を持ってきたわけではありません。銀行がパン屋さんに貸すときに、新しく作った預金です。お札を印刷したわけでもありません。
ここで「預金って何だろう」と考えてみます。財布の 1 万円は、お札そのものです。一方、口座の 1 万円は「銀行があなたに 1 万円を払います」という約束だと考えると分かりやすくなります。ATM で引き出せば、銀行はその約束どおり現金を渡します。
パン屋さんへの貸出では、次の 2 つの約束が同時にできます。
- パン屋さんは、銀行に「借りた 80 万円を返します」と約束する。
- 銀行は、パン屋さんに「80 万円を引き出したり、振り込んだりできます」と約束し、口座に 80 万円を記録する。
銀行には「80 万円を返してもらえる権利」ができ、パン屋さんには「80 万円の預金」ができます。貸すという取引で預金が生まれる。この仕組みを「信用創造」と呼びます。
最初に預けた人への「100 万円を払います」という約束は、そのままです。その人の口座からパン屋さんへ送金したわけではないので、残高も減りません。ただしパン屋さんには返済が必要です。80 万円をもらって、その分豊かになったわけではありません。
口座の数字で、本当にオーブンが買える?
買えます。オーブンの販売店も、預金を代金として受け取ってくれるからです。販売店は受け取った預金で仕入れ代を払ったり、現金を引き出したりできます。こうして銀行の約束は、お金として使われています。
パン屋さんがオーブン代を振り込むところまで見てみましょう。話を簡単にするため、3 人とも同じ銀行を使い、パン屋さんと販売店の残高は初めに 0 円だったとします。
| 何が起きたか | 最初に預けた人 | パン屋さん | 販売店 |
|---|---|---|---|
| 貸す前の預金 | 100 万円 | 0 円 | 0 円 |
| 銀行が 80 万円を貸す | 100 万円 | 80 万円 | 0 円 |
| オーブン代を振り込む | 100 万円 | 0 円 | 80 万円 |
預金の合計は、貸したときに 100 万円から 180 万円へ増えています。 買い物では、そのうちの 80 万円がパン屋さんから販売店へ移っただけです。金庫のお札が 80 万円増えたのではなく、支払いに使える預金が増えたのですね。
じゃあ、銀行はいくらでも作れるの?
口座に数字を書けば終わり、というわけにはいきません。引き出しや振込を頼まれたら、銀行は応じる必要があります。
たとえば、オーブンの販売店が別の銀行を使っていたらどうでしょう。今度はパン屋さんの銀行から、販売店の銀行へも支払いが必要です。その支払いには、銀行が日本銀行に持つ口座のお金などを使います。パン屋さんの残高を書き足すだけでは済まないのです。現金で引き出したいと言われた場合も、お札を用意しなければなりません。
だから銀行は、預金を集めたり、ほかの銀行から借りたりして、支払いに使う資金を確保しています。預金を集めることも、ちゃんと必要なのです。
もう一つは、パン屋さんが返せなくなる心配です。銀行は貸す前に、売上や返済の計画を確かめます。これが審査です。それでも返ってこない場合に備え、損失を引き受ける銀行自身の元手「自己資本」も必要です。貸出のリスクに見合う自己資本を持つよう、ルールが設けられています。
銀行は貸すことで預金を作れますが、支払いに使う資金と、返ってこない場合の備えも必要です。 その両方を考えなければならないので、好きなだけ貸せるわけではありません。
預金に利息がつくのはなぜ?
パン屋さんは、借りた 80 万円に利息をつけて返します。この利息は銀行の収入になります。銀行は貸出などで得た収入から、預金者への利息や、職員の給料などを払っています。
ただし、パン屋さんの利息がそのまま自分に届くわけではありません。預金につく利息は、自分と銀行との契約で決まります。 貸す相手や預ける人ごとに、条件は違います。
パン屋さんが返せなかったら、私の預金も減る?
返ってこない損失は、まず銀行が引き受けます。パン屋さんが返せなくなっただけで、自分の残高から 80 万円が引かれることはありません。 銀行が自分に払うと約束した金額は変わらないからです。
ただし、損失が大きくなり、銀行そのものが経営を続けられなくなることはあります。そのとき預金者を守るのが「預金保険制度」です。日本の対象金融機関では、預金の種類によって守られる範囲が違います。
- 利息のつく普通預金や定期預金などは、1 人につき 1 金融機関ごとに、合計で元本 1,000 万円までと破綻日までの利息等が保護されます。
- 「利息がつかない・いつでも払い戻せる・決済に使える」の 3 条件を満たす決済用預金は、全額保護されます。
- 外貨預金は対象外です。投資信託も預金ではないため、この制度の対象には入りません。
たとえば、同じ銀行の普通預金に 700 万円、別の支店の定期預金に 500 万円があれば、合計は 1,200 万円です。口座や支店を分けても、通常の保護上限は元本 1,000 万円までとその利息等。超えた分が戻るかは、破綻した銀行に残った財産などによります。
自分の口座を確認するときは、商品説明の「預金保険」の欄を見てみてください。対象か、どこまで守られるか、同じ銀行に合計いくら預けているか。この 3 つが分かれば、自分の預金に当てはめられます。
今日の研究結果
増えた 80 万円は、銀行がパン屋さんに貸したときに作った預金でした。「パン屋さんが返す」という約束と、「銀行が引き出しや振込に応じる」という約束が同時にできたのです。
預金の残高は、自分用に取り分けられたお札の枚数ではなく、銀行が自分に払うと約束した金額です。 そう考えると、自分の 100 万円が減らずに、パン屋さんも 80 万円を使える理由が見えてきます。ただし銀行には、その約束を守るための資金と備えが必要です。

