財部(たからべ)教授のお金の研究室

お金の基本/第 5 回(全 12 回)

銀行が貸した 80 万円は、誰のお金? 預金が貸し出しで生まれる仕組み

貸すことで預金が生まれる仕組みと、その限界、預金保険を知る

2026年9月15日に公開約6分で読めます

銀行に預けたお金は、金庫にしまってある。そう考えると、銀行がお金を貸す仕組みは少し不思議です。自分の残高は減っていないのに、借りた人もお金を使える。パン屋さんがオーブンを買う場面で、その謎を追ってみましょう。

銀行に 100 万円を預けています。その銀行がパン屋さんに 80 万円を貸しました。「私のお金から貸したなら、残りは 20 万円?」と思うかもしれません。

でも、自分の残高は 100 万円のまま。パン屋さんの口座には、新しく 80 万円が入ります。誰かの残高を減らさずに、使える預金が増えたのです。

その 80 万円は、どこから来たの?

実は、誰かの 80 万円を持ってきたわけではありません。銀行がパン屋さんに貸すときに、新しく作った預金です。お札を印刷したわけでもありません。

ここで「預金って何だろう」と考えてみます。財布の 1 万円は、お札そのものです。一方、口座の 1 万円は「銀行があなたに 1 万円を払います」という約束だと考えると分かりやすくなります。ATM で引き出せば、銀行はその約束どおり現金を渡します。

パン屋さんへの貸出では、次の 2 つの約束が同時にできます。

  • パン屋さんは、銀行に「借りた 80 万円を返します」と約束する。
  • 銀行は、パン屋さんに「80 万円を引き出したり、振り込んだりできます」と約束し、口座に 80 万円を記録する。

銀行には「80 万円を返してもらえる権利」ができ、パン屋さんには「80 万円の預金」ができます。貸すという取引で預金が生まれる。この仕組みを「信用創造」と呼びます。

最初に預けた人への「100 万円を払います」という約束は、そのままです。その人の口座からパン屋さんへ送金したわけではないので、残高も減りません。ただしパン屋さんには返済が必要です。80 万円をもらって、その分豊かになったわけではありません。

口座の数字で、本当にオーブンが買える?

買えます。オーブンの販売店も、預金を代金として受け取ってくれるからです。販売店は受け取った預金で仕入れ代を払ったり、現金を引き出したりできます。こうして銀行の約束は、お金として使われています。

パン屋さんがオーブン代を振り込むところまで見てみましょう。話を簡単にするため、3 人とも同じ銀行を使い、パン屋さんと販売店の残高は初めに 0 円だったとします。

何が起きたか 最初に預けた人 パン屋さん 販売店
貸す前の預金 100 万円 0 円 0 円
銀行が 80 万円を貸す 100 万円 80 万円 0 円
オーブン代を振り込む 100 万円 0 円 80 万円

預金の合計は、貸したときに 100 万円から 180 万円へ増えています。 買い物では、そのうちの 80 万円がパン屋さんから販売店へ移っただけです。金庫のお札が 80 万円増えたのではなく、支払いに使える預金が増えたのですね。

じゃあ、銀行はいくらでも作れるの?

口座に数字を書けば終わり、というわけにはいきません。引き出しや振込を頼まれたら、銀行は応じる必要があります。

たとえば、オーブンの販売店が別の銀行を使っていたらどうでしょう。今度はパン屋さんの銀行から、販売店の銀行へも支払いが必要です。その支払いには、銀行が日本銀行に持つ口座のお金などを使います。パン屋さんの残高を書き足すだけでは済まないのです。現金で引き出したいと言われた場合も、お札を用意しなければなりません。

だから銀行は、預金を集めたり、ほかの銀行から借りたりして、支払いに使う資金を確保しています。預金を集めることも、ちゃんと必要なのです。

もう一つは、パン屋さんが返せなくなる心配です。銀行は貸す前に、売上や返済の計画を確かめます。これが審査です。それでも返ってこない場合に備え、損失を引き受ける銀行自身の元手「自己資本」も必要です。貸出のリスクに見合う自己資本を持つよう、ルールが設けられています。

銀行は貸すことで預金を作れますが、支払いに使う資金と、返ってこない場合の備えも必要です。 その両方を考えなければならないので、好きなだけ貸せるわけではありません。

預金に利息がつくのはなぜ?

パン屋さんは、借りた 80 万円に利息をつけて返します。この利息は銀行の収入になります。銀行は貸出などで得た収入から、預金者への利息や、職員の給料などを払っています。

ただし、パン屋さんの利息がそのまま自分に届くわけではありません。預金につく利息は、自分と銀行との契約で決まります。 貸す相手や預ける人ごとに、条件は違います。

パン屋さんが返せなかったら、私の預金も減る?

返ってこない損失は、まず銀行が引き受けます。パン屋さんが返せなくなっただけで、自分の残高から 80 万円が引かれることはありません。 銀行が自分に払うと約束した金額は変わらないからです。

ただし、損失が大きくなり、銀行そのものが経営を続けられなくなることはあります。そのとき預金者を守るのが「預金保険制度」です。日本の対象金融機関では、預金の種類によって守られる範囲が違います。

  • 利息のつく普通預金や定期預金などは、1 人につき 1 金融機関ごとに、合計で元本 1,000 万円までと破綻日までの利息等が保護されます。
  • 「利息がつかない・いつでも払い戻せる・決済に使える」の 3 条件を満たす決済用預金は、全額保護されます。
  • 外貨預金は対象外です。投資信託も預金ではないため、この制度の対象には入りません。

たとえば、同じ銀行の普通預金に 700 万円、別の支店の定期預金に 500 万円があれば、合計は 1,200 万円です。口座や支店を分けても、通常の保護上限は元本 1,000 万円までとその利息等。超えた分が戻るかは、破綻した銀行に残った財産などによります。

自分の口座を確認するときは、商品説明の「預金保険」の欄を見てみてください。対象か、どこまで守られるか、同じ銀行に合計いくら預けているか。この 3 つが分かれば、自分の預金に当てはめられます。

今日の研究結果

増えた 80 万円は、銀行がパン屋さんに貸したときに作った預金でした。「パン屋さんが返す」という約束と、「銀行が引き出しや振込に応じる」という約束が同時にできたのです。

預金の残高は、自分用に取り分けられたお札の枚数ではなく、銀行が自分に払うと約束した金額です。 そう考えると、自分の 100 万円が減らずに、パン屋さんも 80 万円を使える理由が見えてきます。ただし銀行には、その約束を守るための資金と備えが必要です。

教授のコメント

次に銀行のアプリを開いたら、残高だけでなく預金の種類も見てみてください。いつ引き出せるのか、利息はつくのか、預金保険の対象なのか。同じ銀行にあるお金でも、その約束は商品によって違います。

次の回第 6 回 来年の引っ越しに使う 30 万円。それまで投資に回しても大丈夫?使う時期と急な出費への備えから、預金で残すお金と投資に回せるお金を分ける
全 12 回の目次
  1. 第 1 回残高 10 万円。家賃と引き落としを引いたら、使えるお金は 5,000 円?
  2. 第 2 回月給 25 万円なのに、振り込まれたのは約 20 万円。5 万円はどこへ消えた?
  3. 第 3 回3 万円の靴を「月々 5,000 円」で。何回払って、手数料はいくら?
  4. 第 4 回年 15% なら、5 年で 75% 増える? 単利と複利で 10 万円を比べる
  5. 第 5 回銀行が貸した 80 万円は、誰のお金? 預金が貸し出しで生まれる仕組み
  6. 第 6 回来年の引っ越しに使う 30 万円。それまで投資に回しても大丈夫?
  7. 第 7 回1 年間、保険料を払ったのに何ももらえない。それは損だったのか?
  8. 第 8 回「年 5%」は約束ではない。もっと増える投資を選べばいいのか?
  9. 第 9 回株式は不安。投資信託なら安心? 中身に株式が入っていても?
  10. 第 10 回長期・分散・積立を守れば、お金は減らない? 3 つの言葉が防ぐものと防げないもの
  11. 第 11 回同じ 10 万円の利益なのに、約 2 万円の税金を払う人と払わない人がいる。NISA と iDeCo の違い
  12. 第 12 回「元本保証で年 20%」。登録番号も載っている。それなら安心してお金を渡せる?

出典

  • 日本銀行「決済の未来と中央銀行の役割」(2024-12-04)。銀行の貸出による預金の創出、銀行預金が現金で払い戻すことを約束するマネーであること、銀行に対する規制・監督の説明を参照。日本銀行の講演。2026-09-15 に確認
  • 日本銀行「日本銀行当座預金とは何ですか? 利息は付きますか?」(教えて!にちぎん)。金融機関どうしの取引の決済手段と、現金の支払準備としての役割を参照。日本銀行の解説。2026-09-15 に確認
  • 全国銀行協会「銀行の健全性は自己資本比率でチェック」。貸出金を回収できない場合に自己資本を取り崩して処理すること、貸出のリスクに応じた自己資本が求められることを参照。全国銀行協会の解説。2026-09-15 に確認
  • 全国銀行協会「どうして預金するだけで利息がつくの?税金は申告しなくていいの?」。銀行の貸出・国債での運用と、運用収入から預金利息を払う仕組みを参照。全国銀行協会の解説。2026-09-15 に確認
  • 全国銀行協会「『金融』って何?」。間接金融において貸出先が返済できないリスクを銀行が負う説明を参照。全国銀行協会の解説。2026-09-15 に確認
  • 金融庁「預金保険制度」「預金・融資等に関する相談事例等及びアドバイス等」。保護範囲、決済用預金の 3 要件を参照。制度の案内・相談事例 1。2026-09-15 に確認
  • 三菱UFJ銀行「預金保険制度について」。保護上限を超える部分の扱いと、外貨預金・投資信託が対象外であることを参照。制度の解説と Q&A。2026-09-15 に確認

本文の取引と残高は仕組みを説明するための例です。個別の商品がどの区分に当たるかは各金融機関の商品説明で確認してください。

本文の制度の数値は 2026-09-15 に確かめたものです。改定されることがあるので、申込や手続きの前に公式の記載をご確認ください。

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