財部(たからべ)教授のお金の研究室

お金の基本/第 7 回(全 12 回)

1 年間、保険料を払ったのに何ももらえない。それは損だったのか?

費用を分け合う保険の仕組みと、公的保険・貯金との役割の違い

2026年9月17日に公開約5分で読めます

何事もなく一年が終わると、払った保険料がもったいなく感じることがあります。その一年、受け取ったお金はゼロでも、契約していた意味までゼロだったのでしょうか。お金を出す側と受け取る側を、同じ表で見てみましょう。

一年間に1万円の保険料を払いました。病気も事故もなく、受け取ったお金はゼロ。「保険に入っていなければ、この1万円は手元に残ったのに」と思うかもしれません。

確かに、手元のお金だけを比べれば1万円減っています。でも、保険で買っていたのは、必ずお金が戻る約束ではありません。 契約で決めた出来事が起きたときに、お金を受け取れる約束です。その違いを、簡単な例で追ってみます。

1万円ずつ集めて、100万円を払う

仕組みを見るため、人数と金額を仮に置いてみます。1,000人が参加し、大きな病気で働けなくなった人に100万円を支払う仕組みです。一年の間に、その条件に当てはまる人が10人ほど出ると見込んでいます。誰が当てはまるかは、あらかじめ分かりません。

ここでは、保険を運営する費用などはひとまず置き、支払いに必要なお金だけを考えます。全員が同じ確率で当てはまるとして、一人ずつ同じ額を出すなら、計算はこうなります。

一年間のお金の動き 計算と金額
支払いに必要と見込むお金 100万円 × 10人 = 1,000万円
参加する人数 1,000人
一人が出すお金 1,000万円 ÷ 1,000人 = 1万円

一人では1万円しか出していなくても、条件に当てはまった人には100万円を払えます。受け取るお金は、自分が積み立てた1万円だけから出るわけではないからです。

保険に入る人が払うお金を「保険料」といいます。契約した条件に当てはまったときに受け取るのが「保険金」や「給付金」です。多くの人が少しずつ負担し、大きな負担が生じた人を支えるのが、保険の基本的な仕組みです。

では、受け取らなかった人は損をした?

一年が終わってからなら、「自分には何も起きなかった」と分かります。でも、保険に入るかどうかを決めるのは、その前です。

何も起きなかった人にも、条件に当てはまれば100万円を受け取れる約束がありました。保険料は、起きたら自分では支えきれない負担に備えるためのお金です。 受け取った額だけでは、その役割は測れません。

その1万円を貯金するのではだめ?

貯金なら、病気が起きなくても自分のお金として残り、別の用途にも使えます。ただし、毎年1万円ずつ貯める場合、一年後に使えるのは1万円です。まだ貯まっていない時期に大きな負担が生じることもあります。

保険では、払った保険料より大きな額を受け取れる場合があります。保障が始まっていて、契約の支払い条件を満たすことが前提です。貯金と違うのはこの点です。

冷蔵庫の買い替え代なら、手元の貯金で払えるかもしれません。でも、長く働けなくなったときの生活費はどうでしょう。同じ貯金では支えきれないこともあります。自分で払える出費と、起きると生活が立ち行かなくなる負担を分けると、保険の役割が見えてきます。

必要なお金は、全部保険で用意するの?

保険会社などと契約するのが民間保険です。その前に、社会保障の制度である公的保険で、すでにどこまで備えられているかを確認します。日本には、医療費や収入の減少を支える仕組みがあります。

たとえば、高額な医療費の負担を抑える「高額療養費制度」。病気やけがで働けないときの生活を支える「傷病手当金」を受け取れる場合もあります。家計を支える人が亡くなったときには、遺族の生活を支える「遺族年金」があります。

使える制度や受け取れる額・期間は、人によって違います。受け取れる額や期間は、加入している健康保険や年金の窓口、末尾の公式案内で確認できます。

それでも足りない分を、保険で補う

公的保障と貯金で支えられる分は、民間保険がなくても支払いに困りません。考え方を式にすると、こうなります。

必要なお金 − 公的保障で補えるお金 − 使える貯金 = 保険で備えたい不足分

生活費なら、まず何か月分必要かを決めます。公的保障も同じ期間に受け取れる額で比べます。家族の収入や勤務先の制度で補えるお金も差し引きます。貯金は、ほかの支払いに使う予定の分を除いて数えます。

こうして残る負担が、自分では抱えきれないほど大きいかを考えます。足りるなら、保険を増やす必要がない場合もあります。不足分があるなら、その出来事に備えられる契約かを確かめます。

財部教授の30秒チェック

保険料を見る前に、次の三つをメモしてみてください。

  1. 何が起きると、誰の生活費やどの支払いに困るか。いくら・何か月分必要かを書く。
  2. 公的保障や家族の収入などで補える額と、使える貯金を差し引く。期間をそろえて比べる。
  3. 残る負担に対し、検討している保険がいつ・いくら払う契約か。

三つ目では、支払われない場合や保障が続く期間も確認します。心配している出来事が対象外なら、その備えにはなりません。保険料を払っても今の暮らしを続けられるか、家計の中で確かめます。

今日の研究結果

一年間何も受け取らなくても、条件に当てはまったときにお金を受け取れる約束はありました。その約束が自分に必要かは、公的保障や貯金で補っても残る負担から考えます。

「払った分を取り戻せるか」から、「何が起きたら、いくら足りなくなるか」へ。そこから見ると、貯金と保険にそれぞれ何を任せるかを考えられます。

教授のコメント

加入している保険があれば、「どんなときに、いくら受け取れるか」を一つだけ調べてみてください。保険料の額だけでは見えなかった、備えている出来事が分かります。

次の回第 8 回 「年 5%」は約束ではない。もっと増える投資を選べばいいのか?「年5%」の見込みと結果の振れ幅を、お金を使う時期と合わせて考える
全 12 回の目次
  1. 第 1 回残高 10 万円。家賃と引き落としを引いたら、使えるお金は 5,000 円?
  2. 第 2 回月給 25 万円なのに、振り込まれたのは約 20 万円。5 万円はどこへ消えた?
  3. 第 3 回3 万円の靴を「月々 5,000 円」で。何回払って、手数料はいくら?
  4. 第 4 回年 15% なら、5 年で 75% 増える? 単利と複利で 10 万円を比べる
  5. 第 5 回銀行が貸した 80 万円は、誰のお金? 預金が貸し出しで生まれる仕組み
  6. 第 6 回来年の引っ越しに使う 30 万円。それまで投資に回しても大丈夫?
  7. 第 7 回1 年間、保険料を払ったのに何ももらえない。それは損だったのか?
  8. 第 8 回「年 5%」は約束ではない。もっと増える投資を選べばいいのか?
  9. 第 9 回株式は不安。投資信託なら安心? 中身に株式が入っていても?
  10. 第 10 回長期・分散・積立を守れば、お金は減らない? 3 つの言葉が防ぐものと防げないもの
  11. 第 11 回同じ 10 万円の利益なのに、約 2 万円の税金を払う人と払わない人がいる。NISA と iDeCo の違い
  12. 第 12 回「元本保証で年 20%」。登録番号も載っている。それなら安心してお金を渡せる?

出典

満期や解約時にお金を受け取る保険の仕組みは、この回では扱っていません。

本文の制度の数値は 2026-09-17 に確かめたものです。改定されることがあるので、申込や手続きの前に公式の記載をご確認ください。

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