お金の基本/第 7 回(全 12 回)
1 年間、保険料を払ったのに何ももらえない。それは損だったのか?
費用を分け合う保険の仕組みと、公的保険・貯金との役割の違い

何事もなく一年が終わると、払った保険料がもったいなく感じることがあります。その一年、受け取ったお金はゼロでも、契約していた意味までゼロだったのでしょうか。お金を出す側と受け取る側を、同じ表で見てみましょう。
一年間に1万円の保険料を払いました。病気も事故もなく、受け取ったお金はゼロ。「保険に入っていなければ、この1万円は手元に残ったのに」と思うかもしれません。
確かに、手元のお金だけを比べれば1万円減っています。でも、保険で買っていたのは、必ずお金が戻る約束ではありません。 契約で決めた出来事が起きたときに、お金を受け取れる約束です。その違いを、簡単な例で追ってみます。
1万円ずつ集めて、100万円を払う
仕組みを見るため、人数と金額を仮に置いてみます。1,000人が参加し、大きな病気で働けなくなった人に100万円を支払う仕組みです。一年の間に、その条件に当てはまる人が10人ほど出ると見込んでいます。誰が当てはまるかは、あらかじめ分かりません。
ここでは、保険を運営する費用などはひとまず置き、支払いに必要なお金だけを考えます。全員が同じ確率で当てはまるとして、一人ずつ同じ額を出すなら、計算はこうなります。
| 一年間のお金の動き | 計算と金額 |
|---|---|
| 支払いに必要と見込むお金 | 100万円 × 10人 = 1,000万円 |
| 参加する人数 | 1,000人 |
| 一人が出すお金 | 1,000万円 ÷ 1,000人 = 1万円 |
一人では1万円しか出していなくても、条件に当てはまった人には100万円を払えます。受け取るお金は、自分が積み立てた1万円だけから出るわけではないからです。
保険に入る人が払うお金を「保険料」といいます。契約した条件に当てはまったときに受け取るのが「保険金」や「給付金」です。多くの人が少しずつ負担し、大きな負担が生じた人を支えるのが、保険の基本的な仕組みです。
では、受け取らなかった人は損をした?
一年が終わってからなら、「自分には何も起きなかった」と分かります。でも、保険に入るかどうかを決めるのは、その前です。
何も起きなかった人にも、条件に当てはまれば100万円を受け取れる約束がありました。保険料は、起きたら自分では支えきれない負担に備えるためのお金です。 受け取った額だけでは、その役割は測れません。
その1万円を貯金するのではだめ?
貯金なら、病気が起きなくても自分のお金として残り、別の用途にも使えます。ただし、毎年1万円ずつ貯める場合、一年後に使えるのは1万円です。まだ貯まっていない時期に大きな負担が生じることもあります。
保険では、払った保険料より大きな額を受け取れる場合があります。保障が始まっていて、契約の支払い条件を満たすことが前提です。貯金と違うのはこの点です。
冷蔵庫の買い替え代なら、手元の貯金で払えるかもしれません。でも、長く働けなくなったときの生活費はどうでしょう。同じ貯金では支えきれないこともあります。自分で払える出費と、起きると生活が立ち行かなくなる負担を分けると、保険の役割が見えてきます。
必要なお金は、全部保険で用意するの?
保険会社などと契約するのが民間保険です。その前に、社会保障の制度である公的保険で、すでにどこまで備えられているかを確認します。日本には、医療費や収入の減少を支える仕組みがあります。
たとえば、高額な医療費の負担を抑える「高額療養費制度」。病気やけがで働けないときの生活を支える「傷病手当金」を受け取れる場合もあります。家計を支える人が亡くなったときには、遺族の生活を支える「遺族年金」があります。
使える制度や受け取れる額・期間は、人によって違います。受け取れる額や期間は、加入している健康保険や年金の窓口、末尾の公式案内で確認できます。
それでも足りない分を、保険で補う
公的保障と貯金で支えられる分は、民間保険がなくても支払いに困りません。考え方を式にすると、こうなります。
必要なお金 − 公的保障で補えるお金 − 使える貯金 = 保険で備えたい不足分
生活費なら、まず何か月分必要かを決めます。公的保障も同じ期間に受け取れる額で比べます。家族の収入や勤務先の制度で補えるお金も差し引きます。貯金は、ほかの支払いに使う予定の分を除いて数えます。
こうして残る負担が、自分では抱えきれないほど大きいかを考えます。足りるなら、保険を増やす必要がない場合もあります。不足分があるなら、その出来事に備えられる契約かを確かめます。
財部教授の30秒チェック
保険料を見る前に、次の三つをメモしてみてください。
- 何が起きると、誰の生活費やどの支払いに困るか。いくら・何か月分必要かを書く。
- 公的保障や家族の収入などで補える額と、使える貯金を差し引く。期間をそろえて比べる。
- 残る負担に対し、検討している保険がいつ・いくら払う契約か。
三つ目では、支払われない場合や保障が続く期間も確認します。心配している出来事が対象外なら、その備えにはなりません。保険料を払っても今の暮らしを続けられるか、家計の中で確かめます。
今日の研究結果
一年間何も受け取らなくても、条件に当てはまったときにお金を受け取れる約束はありました。その約束が自分に必要かは、公的保障や貯金で補っても残る負担から考えます。
「払った分を取り戻せるか」から、「何が起きたら、いくら足りなくなるか」へ。そこから見ると、貯金と保険にそれぞれ何を任せるかを考えられます。

