財部(たからべ)教授のお金の研究室

社会人一年目のお金/第 5 回

スマホの補償に月 990 円。2 年払って修理代とほぼ同じ。何のために払っていた?

払った保険料と修理代を比べるのではなく、起きたときの額を払っても暮らしが崩れないかで、何に保険をかけるかを分ける

2026年10月9日に公開約7分で読めます

11 月、陽太さんはスマホを落として画面を割ります。大学時代から毎月 990 円払ってきた補償を使うことになりますが、払った合計を数えてみると、修理代とほとんど同じでした。補償の額と修理代は架空の例ですが、保険の考え方は金融庁の金融ガイドと日本損害保険協会の説明に合わせています。

11 月 14 日の土曜日、駅の階段でスマホが手から滑り落ちた。拾い上げると、画面の左上から右下へ、ひびが 1 本走っていた。触ると、指に引っかかる。

陽太は、そのまま駅前の修理店に持ち込んだ。

「画面の修理ですね。この場合は画面ごと交換になります。この機種だと、38,500 円です」

38,500 円。先月の給料が入って、口座には 45 万円ほどある。払えない額ではなかった。それでも、1 本のひびに 38,500 円は高い。

「補償サービスには入っていますか」

言われて思い出した。大学 3 年の秋にこのスマホを買ったとき、店員に勧められて、月 990 円の補償に入っていた。「画面が割れたら、自己負担 11,000 円で直せます」と言われて、そのままにしてある。毎月のスマホ代と一緒に引き落とされているので、意識したことはなかった。

アプリで契約を確かめると、たしかに入っていた。店員が、自己負担は 11,000 円だと言う。

「じゃあ、それで」

直ったスマホを受け取って、帰りの電車で、陽太は計算をしてみた。大学 3 年の 10 月から、今月まで。2 年と 2 か月、26 回。990 円 × 26 回で、25,740 円。今日の 11,000 円を足すと、36,740 円。

修理代は、38,500 円だった。

差は 1,760 円。2 年間払ってきた補償で得をしたのは、1,760 円ということになる。もし今日落とさなかったら、25,740 円を払っただけで、何も受け取っていなかった。

月曜日、会社で同期にその話をすると、同期はあっさり言った。

「俺、補償は入ってない。壊れたら払う。その 990 円、毎月貯めておけば同じことだろ」

たしかに、同じことのような気がした。月 990 円を 26 回貯めていれば 25,740 円。それに 11,000 円を足せば、修理代をほとんど払えた。

家に帰って、陽太は補償をやめる手続きを調べ始めた。契約の書類を探して、引っ越しのときの箱を開けると、別の保険の証券が出てきた。

「火災保険 保険期間 2 年 保険料 20,000 円」

部屋を借りたときに、不動産屋で言われるまま払ったものだった。家財 300 万円、借家人賠償 2,000 万円、と書いてある。これも、2 年で 20,000 円。火事なんて、起こしたことはない。

スマホの補償はやめようと思っていた。この保険は、どうなんだろう。同じ「保険」なのに、同じように考えていいのか、陽太には分からなかった。

陽太さんの 2 つの保険を並べる

ここから先は、陽太さんが持っている 2 つの保険を、私が並べて見ます。

まず、陽太さんの計算は合っています。払った保険料の合計 25,740 円に自己負担 11,000 円を足すと 36,740 円で、修理代 38,500 円との差は 1,760 円です。同期の「毎月貯めておけば同じ」も、今の時点ではほぼそのとおりです。

ただ、この比べ方には抜けている場合があります。買って 3 か月目に落としていたら、どうなっていたか。 貯めた額は 2,970 円で、修理代の 38,500 円には届きません。補償に入っていれば、11,000 円で直せます。保険料より大きな額を受け取れることがあるのが、貯金と保険の違いです。

では、陽太さんは補償を続けるべきなのか。それは「得か損か」では決まりません。もう 1 つの問いで決まります。その問いとは「その出来事が起きたとき、払っても暮らしが崩れないか」です。

起きたときの額を、払っても暮らしが崩れないか

2 つの保険が備えている出来事と、起きたときに払う額を並べます。比べる相手は保険料ではなく、今の陽太さんが自由に使えるお金です。

備えている出来事 起きたときに払う額 今の陽太さんが払っても暮らしが崩れないか 払っている保険料
スマホの画面が割れる 38,500 円 払える(口座には 45 万円ほど。次の給料日までの出費を引いても足りる) 月 990 円(年 11,880 円)
火事で借りている部屋を焼く 部屋を元に戻す費用。借家人賠償の上限は 2,000 万円 払えない(額面の給料の 6 年分を超える) 2 年で 20,000 円(年 10,000 円)
火事や水漏れで家具・服・パソコンが使えなくなる 買い直す費用。家財の上限は 300 万円 貯金では足りない 同上に含まれる

スマホの修理代 38,500 円は、今の陽太さんなら自分で払えます。貯金が少なかった大学 3 年の陽太さんには、払えなかったかもしれません。同じ補償でも、入る理由は手元のお金で変わります。

火事のほうは、逆です。借りている部屋には、元の状態に戻して返す義務があります。火事を起こして部屋を焼いてしまったら、直す費用は借りた人が負います。数百万円から千万円単位になることがあり、今の陽太さんの貯蓄では払えません。火災保険の 20,000 円は、この「払えない額」に備えています。

同期の「貯めておけば同じ」は、貯めた額で払える出来事には当てはまります。借家人賠償の 2,000 万円には、当てはまりません。

払える額の出来事でも、保険料を払って備えを買う選択はあります。スマホの補償は、要らないのではなく、今の陽太さんなら貯金でも備えられる、です。どちらを選ぶかは、陽太さんの側にあります。

保険料を払って、何ももらわない年

陽太さんが今日スマホを落とさなければ、いままで保険料として払った 25,740 円は払っただけで終わっていました。火災保険の 20,000 円は、火事が起きなければ、やはり何も受け取りません。

それでも、払った保険料が無駄だったことにはなりません。保険料で買っているのは、決めた出来事が起きたときに保険金を受け取れる約束です。火事が起きなかった 2 年間も、約束はずっと効いていました。この考え方は、お金の基本ゼミの第 7 回で、1 万円ずつ出し合う例で確かめています。

もう 1 つ、陽太さんがすでに持っている保険があります。給料から毎月引かれている健康保険料です。病気やけがで入院しても、医療費の自己負担には上限があります(高額療養費制度)。入院のような大きな出来事は、公的保険が先に備えていて、民間の保険は、そこで足りない分を補う位置にあります。

陽太さんの問いに戻る

2 年払った補償が修理代とほぼ同じだったのは無駄だったのか。答えは、「払った額と受け取った額の差」では決められない、でした。決めるのは、その出来事が起きたときの額を払っても、暮らしが崩れないかどうかです。

今回分かったことを、3 つにまとめます。

  • 保険料の合計と受け取った額を比べても、保険が要るかどうかは決まらない。保険は、まだ貯まっていない時期に起きた出来事にも、決めた額を払う
  • 起きたときの額を払っても暮らしが崩れないなら、貯金でも備えられる。払うと暮らしが崩れる額(借りた部屋の修理、大きな病気)に、保険の役割がある
  • 同じ人でも、手元のお金が変われば、同じ保険が要るかどうかは変わる。大学 3 年の陽太さんと、今の陽太さんは、別の答えになりうる

教授のコメント

陽太さんの手元には、月 990 円のスマホの補償と、2 年で 20,000 円の火災保険の、2 つの保険があります。自分の手元にある保険や補償を 1 つ思い出して、それが備えている出来事が起きたら、いくら払うことになるか。その額は、今の自分で払えますか。

出典

  • 金融庁「基礎から学べる金融ガイド」冊子 17〜19 ページ「生命保険/損害保険」。保険が公的制度でカバーされない部分への備えであること、火災保険が火災などで建物や家具・衣服に生じた損害に備える保険であること、必要な保障(補償)が「もしものときに必要な額 − 現在の資産・将来の収入」で考えられること、負担できる保険料かを確認することを参照。https://www.fsa.go.jp/teach/kou4.pdf 。2026-10-09 に確認
  • 日本損害保険協会「アパートに入るときに火災保険に入るように言われたけどなぜ?」。借りた部屋は元の状態に戻して返す義務(原状回復義務)があること、賃貸で契約する火災保険が大家の建物の保険ではなく家財の保険であること、借家人賠償責任保険を付けると借りた部屋に損害を与えた場合の修理費用が補償されることを参照。https://www.sonpo.or.jp/wakaru/seminar/koredake/point6.html 。2026-10-09 に確認
  • 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」。医療費の自己負担に月ごとの上限があることを参照。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html 。2026-10-09 に確認

スマホの補償の月額・自己負担額・修理代、火災保険の保険料と補償の上限は、架空の例です。補償の中身、自己負担の額、受け取れない場合は契約ごとに違います。自分の契約は、契約の書類かアプリの契約内容で確かめてください。

本文の制度の数値は 2026-10-09 に確かめたものです。改定されることがあるので、申込や手続きの前に公式の記載をご確認ください。

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