財部(たからべ)教授のお金の研究室

社会人一年目のお金/第 1 回

初任給より、2 か月目の給料が 35,000 円少ない。何が引かれ始めた?

4 月と 5 月の給与明細を並べ、社会保険料が引かれ始める時期と手取りの関係を知る

2026年10月8日に公開約6分で読めます

社会人になったばかりの陽太さんが、2 回目の給料日に首をかしげています。給料の数字は、2026 年度の保険料率と税額表で計算しました。

4 月 25 日の昼休み、森下陽太はスマホで銀行のアプリを開いた。入金の欄に、見慣れない大きな数字が並んでいる。

「252,270 円」

求人票には「月給 26 万円」と書いてあった。そこから 8,000 円ほどしか減っていない。思っていたより残っている。

3 月に地方の実家を出て、会社まで電車で 30 分のアパートを借りた。引っ越し代と家具で、大学時代のアルバイトで貯めた 30 万円は 4 万円まで減っていた。その口座に、初めての給料が入った。

「意外と引かれないんだな」

隣の席の同期に言うと、同期も「自分もそんな感じ」とうなずいた。

その週末、陽太は家電量販店へ行き、引っ越しのときに後回しにしていた電子レンジと掃除機を買った。カーテンも、仮に付けていた古いものから替えた。会社に着ていくシャツと、2 着目のスーツも買った。歓迎会が 2 回あった。月末には、5 月分の家賃 75,000 円を払った。

それでも、まだ残っている。毎月これだけ入るなら、と陽太は考えた。夏までには、ノートパソコンを一括で買える。大学で使っていたものは、もう動きが遅い。値札で見た 15 万円の機種を、スマホのメモに書いておいた。

5 月 25 日。2 回目の給料日に、陽太はまた銀行のアプリを開いた。

「216,656 円」

4 月より、35,000 円以上少ない。残業は 4 月も 5 月もしていない。休んだ日もない。

会社のサイトから給与明細を開くと、給料から引かれたお金が並ぶ「控除」の欄に、4 月には無かった行が 3 つ増えていた。健康保険、厚生年金、子ども・子育て支援金。3 つを足すと、36,894 円になる。所得税は、逆に 4 月より少し減っていた。

「先月は、引き忘れてたってこと?」

同期に聞くと、「わからないけど、自分も減ってた」と返ってきた。夜、母からメッセージが届いた。

「2 回目のお給料も出た? 来年の 6 月からは住民税も引かれるから、気をつけてね」

まだ減るのか、と陽太は思った。スマホのメモを開くと、15 万円のパソコンの行がある。その下に、毎月いくら入るかを書き直そうとして、手が止まった。

4 月の 252,270 円と、5 月の 216,656 円。毎月入る額だと思っていいのは、どっちなんだろう。

陽太さんの明細を並べてみる

陽太さんの手が止まったところで、物語を閉じます。ここからは私が、4 月と 5 月の明細を行ごとに並べて、どちらを毎月入る額と見ていいのかを確かめます。額面の月給は、どちらの月も同じ 26 万円です。

4 月 5 月
額面の月給 260,000 円 260,000 円
健康保険(病院の費用を支え合う) 0 円 12,805 円
子ども・子育て支援金(健康保険と一緒に集める) 0 円 299 円
厚生年金(将来の年金のため) 0 円 23,790 円
雇用保険(仕事を失ったときのため) 1,300 円 1,300 円
所得税 6,430 円 5,150 円
振り込まれた額 252,270 円 216,656 円

4 月に引かれなかったのは、健康保険・子ども・子育て支援金・厚生年金の 3 つでした。 引き忘れではなく、陽太さんの会社では、この 3 つは 4 月の給料から引かれません。

額面は、税金や社会保険料が引かれる前の金額です。健康保険・厚生年金・雇用保険の保険料を、まとめて社会保険料と呼びます。振り込まれるのは、そこから引かれた残りの手取りです。陽太さんが「8,000 円ほどしか減っていない」と感じた 4 月の振込額は、引かれるはずのものがまだ引かれていない額でした。

なぜ 4 月は引かれなかった?

健康保険と厚生年金の保険料は、入社した月の分からかかります。陽太さんの場合、4 月分の保険料はかかっています。

ただ、陽太さんの会社は、前の月の分の保険料を、その月の給料から引きます。5 月の給料から引かれたのは、4 月分の保険料です。4 月の給料から引くはずの「前の月の分」は、陽太さんが入社する前の 3 月分なので、ありません。

子ども・子育て支援金は、2026 年 4 月分から健康保険と一緒に集めるようになった、新しいお金です。これも 4 月分を 5 月の給料から引くので、5 月の明細で初めて出てきました。

雇用保険は、その月の給料に決まった割合を掛けて、その月に引きます。だから 4 月にも引かれていました。

所得税が 5 月に少し減ったのは、所得税を計算するときに、引いた社会保険料の分を除いてから税額を決めるからです。4 月は健康保険・子ども・子育て支援金・厚生年金を引いていないので、そのぶん所得税の計算のもとになる額が大きくなっていました。

6 月からも、陽太さんの給料が 26 万円のままなら、明細は 5 月と同じ形になります。毎月入る額の目安になるのは 5 月の形です。

まだ変わるところはある?

お母さんが書いてきた住民税は、前の年の所得をもとに計算されます。給料から引かれるのは、6 月から翌年の 5 月までです。

陽太さんの前の年の収入は、大学時代のアルバイト代だけで、住民税がかからない額でした。だから 1 年目の給料からは、住民税が引かれていません。働き始めた 2026 年の給料をもとにした住民税が、2027 年 6 月の給料から引かれ始めます。そのときに、振り込まれる額がもう一段減ります。

保険料をどの月の給料から引くかは、会社によって違います。陽太さんの会社は前の月の分を引いていましたが、その月の分をその月の給料から引く会社もあります。その会社に入っていたら、4 月の振込額は最初から 5 月に近い額になり、陽太さんは初任給の額に驚かなかったかもしれません。

つまり、初めての給料の振込額は、どの会社でも「これから毎月入る額」とは限りません。入社した月だけ、まだ引かれていない行があるかもしれないからです。確かめる場所は、明細の控除の欄です。4 月に 0 円だった行が、5 月にいくら引かれるかで、毎月の額が分かります。

陽太さんの問いに戻る

毎月入る額だと思っていいのはどっちか。陽太さんの問いへの答えは、5 月の 216,656 円のほうでした。4 月の 252,270 円は、まだ引かれていない行がある月だけの額です。

今回分かったことを、3 つにまとめます。

  • 求人票の月給は額面で、振り込まれるのはそこから税金と社会保険料を引いた手取り
  • 健康保険と厚生年金の保険料は、陽太さんの会社では前の月の分をその月の給料から引く。だから入社した月の給料には、まだ出てこない
  • 来年 6 月からは住民税も引かれ始める。1 年目の振込額が、そのまま 2 年目に続くわけではない

教授のコメント

4 月の陽太さんの立場だったら、初任給のうちいくらを 5 月から先の暮らしのために取っておきますか。その額を決める前に、明細のどの行を確かめておきたいですか。

出典

明細の金額は、2026 年度の料率と税額表で計算した例です。東京の協会けんぽに加入し、扶養する家族がおらず、通勤手当などは無いものとして計算しました。実際の額は、住んでいる都道府県、加入している健康保険、年齢、手当によって変わります。自分の額は、給与明細と勤め先の案内で確かめてください。

本文の制度の数値は 2026-10-08 に確かめたものです。改定されることがあるので、申込や手続きの前に公式の記載をご確認ください。

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