財部(たからべ)教授のお金の研究室

社会人一年目のお金/第 7 回

「NISA で増えた」と先輩は言う。同じものを今から買えば、自分も同じように増える?

先輩の 42 万円は先輩の 3 年の値動きの結果で、自分の 3 年は別の 3 年。NISA で同じなのは増えた分に税金がかからないことだけで、積立の額は何年も手を付けないお金から決める

2026年10月12日に公開約8分で読めます

3 月、陽太さんの 1 年目が終わります。会社の先輩から「NISA で 36 万円が 42 万円になった」と聞き、口座の申し込みまで進めます。NISA の仕組みは金融庁の NISA 特設サイトに、値動きと長期・積立の考え方は金融庁と金融経済教育推進機構の説明に合わせています。

3 月 19 日の金曜日、会社の先輩の岡本と帰りの電車が一緒になった。岡本は同じ部署の 5 年目で、27 歳。陽太が「1 年で 80 万円くらい貯まりました」と話すと、岡本は自分のスマホを出した。

「俺は NISA やってる。3 年前に始めて、毎月 1 万円ずつ。36 万入れたのが、今 42 万になってる」

画面には、今の額として 420,000 円台の数字と、プラス 6 万円の表示があった。

「増えた分に税金がかからないのがいいんだよ。普通の口座だと 2 割取られる。森下も 1 年目のうちに始めたほうがいい。早く始めるほど増えるから」

「何を買ってるんですか」

「教えてもいいけど、結局は自分で選ぶものだから」

岡本はそう言って、商品の名前は言わなかった。

土曜日の朝、陽太は銀行のアプリを開いた。残高は 792,267 円。

1 年前の 4 月、ここには 4 万円しかなかった。年末に実家へ帰り、1 月にはパソコンのリボ払いの残り 125,000 円を手数料と合わせて一括で払った。それでも口座は、ボーナスが入る前の 12 月初めより増えている。

12 月に同期と飲んだ帰りに証券会社のアプリを入れたが、それきり開いていない。そのアプリを、陽太は 3 か月ぶりに開いた。NISA 口座の申し込みの画面を進める。本人確認は、マイナンバーカードにスマホをかざして、4 桁の暗証番号を入れるだけだった。申し込みは 10 分で終わった。審査に数日かかる、と表示が出た。土曜日なので、月曜日までは何も進まないらしい。

完了の画面の下に「積立の設定」のボタンがあった。押すと、設定は 2 つだった。毎月いくら積み立てるか。何を買うか。

毎月いくらのほうは、考える材料があった。ボーナスが出た 12 月に、212,748 円の使う時期を 3 つに分けている。年末に使う 50,000 円、1 月に使う 125,000 円、使う時期を決めていない 37,748 円。投資に回してもいいと思えたのは 3 つ目だけで、その 37,748 円は結局、そのまま口座に置いてある。

同じやり方で、今の口座の 79 万円を見てみる。来月の家賃と光熱費とスマホ代と食費で 135,200 円。それを引いた 65 万円には、使う時期の決まったものがない。12 月の 37,748 円とは、桁が違う。

それでも、65 万円を全部投資に回していいとは思えなかった。スマホを落としたときのような出費は、またある。6 月からは住民税も引かれる。1 年前に母が電話で「来年の 6 月からは気をつけてね」と言っていたが、いくら引かれるのかは、まだ分からない。65 万円のうちいくらなら投資に回していいのか、陽太には線を引けなかった。

何を買うかのほうは、材料がなかった。岡本が買ったのは 3 年前だ。同じものを今から買えば、自分も 3 年で 6 万円増えるのか。それとも、増えたのは岡本の 3 年の話で、自分の 3 年は別なのか。

陽太は設定を 2 つとも空のままにして、アプリを閉じた。4 月から、2 年目が始まる。

岡本さんの 3 年と、陽太さんの 3 年を並べる

陽太さんの 1 年目はここで終わります。最後の迷いを私が受けて、岡本さんの数字のうち、陽太さんにも当てはまるものと当てはまらないものを分けます。

NISA は商品の名前ではなく、NISA 口座で買った株式や投資信託の利益に税金がかからなくなる制度です。通常の口座では利益に約 20% の税金がかかります。例えば、岡本さんの利益 60,000 円なら、税金は約 12,000 円です。それが NISA 口座では 0 円になります。

ただ、36 万円を 42 万円にしたのは NISA ではなく、岡本さんが選んだ商品の値上がりです。NISA の仕組みは、増えたときに税金がかからないことだけです。減らない仕組みも、増える仕組みもありません。金融庁も、元本割れのおそれがあると書いています。

岡本さんの 3 年(2024 年 3 月から) 陽太さんの 3 年(2027 年 4 月から)
毎月投資に回す額 月 10,000 円 × 36 回で 36 万円 陽太さんが決める
3 年後の額 42 万円。もう出ている 分からない。36 万円より多いことも、少ないこともある
利益にかかる税金 0 円。通常の口座なら約 12,000 円 利益が出れば 0 円。減った分を埋めてくれるわけではない
途中で売れるか 売る注文はいつでも出せる。値段は注文のあとに決まり、お金が戻るのは数日後 同じ

税金と売れるかの 2 行は NISA の仕組みで、誰が使っても同じです。当てはまらないのは、3 年後の額の行です。岡本さんの 42 万円は 2024 年からの 3 年の値動きの結果で、2027 年からの 3 年は、まだ誰にも分かりません。同じ商品を買っても、陽太さんの 3 年は別の 3 年です。

岡本さんの「早く始めるほど増える」には、合っている部分と、そうとは言えない部分があります。早く始めれば、それだけ長く持てます。増えた分にも利益が付く複利の効果は、長く持つほど大きくなります。ただ、長く持てば必ず増えるわけではありません。金融経済教育推進機構の説明では、期間が長いほど結果のぶれも大きくなりうる、とされています。長く持つことで確かになるのは、増えることではありません。今日明日の値動きに合わせて売ったり買ったりしなくて済むことです。

79 万円のうち、どのお金を投資に回すか

何を買うかは扱いません。毎月いくら投資に回すかを、陽太さんが分けた 65 万円の中から考えます。陽太さんは 79 万円を、来月使う 135,200 円と、使う時期の決まっていない 65 万円に分けました。この 65 万円を、急に要るかもしれないお金と、何年も手を付けないでいられるお金の 2 つに分けます。

使う時期 いくら どこに置く
次の 1 か月で出ていく 家賃 75,000 円、電気・ガス・水道・スマホ 15,200 円、食費 45,000 円で 135,200 円 給料の口座
使う日は決まっていないが、要るかもしれない スマホの修理のような急な出費の分と、6 月から住民税で減る手取りの分 預金。額は陽太さんが決める
急に要ることも無く、何年も手を付けないでいられる 上の 2 つを引いた残り 積立に回せるのはここだけ

3 行目の額から、毎月の積立の額を決めます。積立は、決めた額ずつ買い続けて、買う日を一度にまとめない方法です。

2 行目に書いた住民税は、前の年の所得で決まります。2026 年の給料とボーナスにかかる分が、2027 年 6 月から毎月の給料から引かれます。額は 6 月の給与明細で分かるので、積立の額はそれを見てから直してもよいものです。

陽太さんの問いに戻る

岡本さんは 3 年で 36 万円が 42 万円になった。同じものを今から買えば、自分も同じように増えるのか。答えは、増えるとは言えない、でした。陽太さんにも当てはまるのは NISA の仕組みで、42 万円という結果は当てはまりません。口座を開くことと、毎月の額を決めることは、今の陽太さんにできます。

今回分かったことを、3 つにまとめます。

  • NISA は商品ではなく、利益に税金がかからない制度。増やすのは NISA 口座で買った商品の値動きで、減ることもある
  • 先輩の 3 年の結果は、これからの 3 年の結果にはならない。当てはまるのは、税金がかからないことと、売る注文をいつでも出せることまで
  • 投資に回すお金は、何年も手を付けないお金から決める。6 月から住民税が引かれ始めるので、2 年目の手取りは 1 年目より減る

1 年目から 2 年目へ

4 月に 40,000 円だった陽太さんの口座は、3 月に 792,267 円になりました。増えたのは残高だけではありません。5 月には給与明細の控除の欄を読み、6 月にはカードの利用明細を上から見ました。8 月にはリボ払いの支払残高を見つけ、11 月には保険の証券を箱から出しました。12 月には、ボーナスの使う時期を 3 つに分けました。2 年目の口座がいくらになるかは、私にも分かりません。ただ、迷ったときにどこを見れば数字が分かるかを、陽太さんはもう知っています。

教授のコメント

3 月 20 日の陽太さんの立場で、積立の設定の「毎月いくら」に数字を入れるとしたら、いくらにしますか。65 万円のうち、何年も手を付けないでいられるお金はいくらと見ますか。その額を決めるとき、6 月から引かれ始める住民税をどう見ますか。

出典

  • 金融庁 NISA 特設ウェブサイト「NISA を知る」。通常は株式や投資信託を売却して得た利益や配当に約 20% の税金がかかることを参照。開ける人の条件、年間に投資できる額、非課税で持てる上限もこのページにある。https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html 。2026-10-10 に確認
  • 金融庁 NISA 特設ウェブサイト「投資の基本」。株式や投資信託には元本割れのおそれがあること、積立投資が決まった金額を続けて投資する方法で高いときにだけ買ってしまうことを避けられること、長期投資で複利の効果が大きくなることを参照。https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/knowledge/basic/index.html 。2026-10-10 に確認
  • 日本証券業協会制作・金融経済教育推進機構(J-FLEC)掲載「長期保有をすることで、かえって損失が大きくなることはありませんか?」。投資期間を長くするほど不確定要素が増え、最終的な運用成果のぶれが大きくなる可能性は否定できない、との回答を参照。https://www.j-flec.go.jp/links/jikan/qa/066.html 。2026-10-10 に確認
  • 東京都主税局「個人住民税と特別徴収について」。個人住民税は前年の所得に対して計算し、6 月から翌年 5 月までの毎月の給料から徴収することを参照。https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/life/kojin_ju/tokubetsu/about 。2026-10-10 に確認

岡本さんの積立の額と 3 年後の評価額は架空の例で、実在の商品の値動きではありません。NISA 口座の開き方、年間に入れられる額、買える商品の範囲は金融庁の NISA 特設ウェブサイトで確かめてください。本人確認の方法は証券会社と時期で変わります。売った代金が口座に戻るまでの日数は商品ごとに違います。陽太さんの 2027 年 6 月からの住民税の額は、この話では計算していません。

本文の制度の数値は 2026-10-12 に確かめたものです。改定されることがあるので、申込や手続きの前に公式の記載をご確認ください。

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