社会人一年目のお金/第 4 回
「元本保証で年 20%」。先輩は本当に配当をもらっている。それで何が分かる?
「配当が実際に入っている」と「元本保証」の 2 つの言葉を、誰が払うのかと法律の決まりから分けて確かめる

9 月、陽太さんは大学時代の先輩から「元本保証で年 20%」の話を聞きます。先輩の口座には、本当に 2 か月分が振り込まれていました。法律の条文と役所の注意は、実在のものを引いています。
9 月 19 日の土曜日、陽太は大学時代のサークルの先輩、浅井と久しぶりに会った。浅井は 2 年目で、都内の別の会社に勤めている。パソコンの話をすると、浅井は笑った。
「リボか。俺も 1 年目にやった。それより、いい話があるんだけど」
浅井が見せたのは、スマホの銀行アプリの入出金の画面だった。8 月 10 日と 9 月 10 日に、同じ会社の名前で 16,667 円ずつ振り込まれている。
「知り合いの会社に 100 万円預けてる。海外の為替を自動で売買するプログラムで運用してて、年 20% の配当が毎月入る。100 万なら月 16,667 円。元本は 1 年後に全額戻る。元本保証」
陽太は画面を見た。振り込みは、本当にあった。
「30 万円からできる。30 万なら月 5,000 円。パソコンのリボの引き落とし、だいたい消えるだろ」
月 5,000 円。先月から、陽太が毎月 27 日に払っている額と同じだった。
「配当を受け取らずに積んでおくと、複利で増える。年 20% だと 5 年で倍以上になるって」
浅井は、会社のホームページも見せてくれた。白い背景に、右上がりのグラフが載っている。社長の名前と、都内の住所もあった。「お客様の声」の欄には、浅井と同じように、毎月の振り込みの画面を載せている人が何人もいた。
「ちゃんとした会社だよ。あと正直に言うけど、俺が紹介した人が始めると、俺にも紹介料が少し入る。だから無理には勧めない。でも今月の募集は月曜までだから、やるなら早めに」
帰りの電車で、陽太は銀行のアプリを開いた。残高は 303,219 円。来週の金曜日は給料日で、月末の家賃まではまだ日がある。30 万円なら、出せる。
メモを開いて、陽太は書いてみた。毎月 27 日に出ていく 6,812 円。毎月 10 日に入ってくる 5,000 円。差は 1,812 円。パソコンが、ほとんどただで買えたような計算になる。1 年後に 30 万円が戻ってきたら、そのときはリボの残りをまとめて払ってもいい。
年 20%。第 3 話で見た、リボ払いの手数料率の 15% より高い。借りる側がカード会社に払う率より、預ける側が受け取る率のほうが高いのは、どういう仕組みなんだろう。
でも、浅井の口座には本当に振り込まれていた。16,667 円が、2 回。
陽太は、スマホの画面を見つめたまま考えた。先輩が本当に受け取っている。それは、この話が本当だという証拠になるんだろうか。
浅井さんの口座に入った 33,334 円を確かめる
陽太さんの迷いをここで預かります。ここからは私が、浅井さんの口座に入った 2 回の振り込みから、何が分かって何が分からないのかを確かめます。
はじめに、浅井さんの話の計算を確かめます。計算は合っています。100 万円の年 20% は 20 万円で、12 で割ると 16,667 円です。「5 年で倍以上」も、複利で計算すると本当です。
| 年 | 年の初めの元本 | その年の 20% | 年の終わり |
|---|---|---|---|
| 1 年目 | 300,000 円 | 60,000 円 | 360,000 円 |
| 2 年目 | 360,000 円 | 72,000 円 | 432,000 円 |
| 3 年目 | 432,000 円 | 86,400 円 | 518,400 円 |
| 4 年目 | 518,400 円 | 103,680 円 | 622,080 円 |
| 5 年目 | 622,080 円 | 124,416 円 | 746,496 円 |
30 万円が、5 年で 746,496 円。10 年なら 1,857,521 円です。受け取った分を元本に足していくので、増える額が毎年大きくなります。
この表は、年 20% が 5 年続くとしたら、という前提で書いた表です。 合っているのは掛け算で、前提のほうは、まだ何も確かめていません。
2 回の振り込みで分かること、分からないこと
浅井さんの口座には、16,667 円が 2 回、合わせて 33,334 円が入っています。これは本当です。では、浅井さんの 100 万円はどうなっているでしょう。
| 金額 | |
|---|---|
| 浅井さんが預けた元本 | 1,000,000 円 |
| 浅井さんの口座に戻ってきた分(2 回) | 33,334 円 |
| まだ相手の手元にある分 | 966,666 円 |
浅井さんの手元に戻っているのは、預けた額の 3.3% です。残りの 966,666 円が戻るかは、1 年後の返金の日まで分かりません。2 回の振り込みが示しているのは、「相手は今、月に 16,667 円を払える」ことまでです。
その 16,667 円が、為替の売買で増えたお金なのか、浅井さんの後に預けた人の元本から出ているお金なのかは、振り込みの画面には書いてありません。後から預けた人の元本を先の人へ配ると、新しく預ける人が続くあいだは、約束どおりに見えます。金融庁も、最初は配当が実際に行われて順調に見えても、のちに引き出せなくなる例があると注意しています。
浅井さんが 2 か月分の配当 33,334 円を受け取っていることからは、1 年後に 100 万円が戻るかどうかまでは分かりません。
「元本保証」は、誰が言える言葉か
もう 1 つ、浅井さんの話には「元本保証」がありました。誰が、何をもとに保証するのでしょう。
ここには、法律の決まりがあります。出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)の第 1 条は、誰であっても、大勢の人から「後で全額か、それ以上を払い戻す」と約束してお金を集めることを禁じています。銀行の預金のように別の法律で認められた仕組みを除くと、「元本保証」でお金を集めること自体が、法律で止められています。
ホームページと住所は、会社があることまでしか示しません。投資のお金を預かる仕事には金融庁への登録が要り、会社の名前は金融庁の金融事業者一括検索で調べられます。登録があっても、その会社の商品で損をしないという意味にはなりません。
浅井さんは、だまそうとしているのか
浅井さんは、紹介料が入ることを自分から話しました。浅井さん自身も、2 回の振り込みを見て、この話を信じています。だます人と、だまされて勧める人は、見た目では分かれません。
だから、確かめる相手を浅井さん以外にすることが必要です。浅井さんが知っているのは「配当が振り込まれている」ことまでです。会社の登録は金融庁の検索で、約束の形は法律で、分からないことが残れば消費生活センターや金融庁の相談室で確かめます。どれも、勧めてくれた人を通さずに確かめられる相手です。
「月曜まで」という期限も、確かめる時間を削ります。確かめる時間を与えない話は、確かめられると困る話と、外からは区別がつきません。
陽太さんの問いに戻る
先輩が本当に受け取っていることは、この話が本当だという証拠になるのか。答えは、「相手が今、月 16,667 円を払えること」の証拠にはなるが、「100 万円が戻ること」の証拠にはならない、でした。
今回分かったことを、3 つにまとめます。
- 年 20% の複利の計算は合っている。合っているかどうかを確かめるべきなのは、20% が続くという前提のほう
- 毎月の配当が入っていることからは、1 年後に元本が戻るかどうかまでは分からない。戻ってきているのは預けた額の 3.3% で、残りは相手の手元にある
- 民間の会社が「元本保証」でお金を集めることは、出資法で禁じられている。確かめる相手は、勧めてくれた人を通さない所にする

