財部(たからべ)教授のお金の研究室

日本のお金の歴史/第 3 回

国が作っていない中国の銭を、なぜ日本の人々は使い、なぜ断るようになった?

国が作っていない銭が、なぜ通用し、なぜ受け取りを断られるようになったのか

2026年9月30日に公開約7分で読めます

お金は、その国が作るもの。そう思うと、昔の日本で中国のお金が広く使われていたのは不思議ですね。しかも、幕府や朝廷が使用を認めたのは、人々の間に広まった後でした。人々は、何が便利でそのお金を使ったのでしょうか。

中国で作られたお金で、日本の買い物をする。年貢まで納める。12世紀から13世紀にかけて、日本ではそんな支払い方が広がりました。

使われたのは、銅などで作った丸いお金です。真ん中に四角い穴があるこのお金を、銭(ぜに)と呼びます。海を渡って日本に入ってきた銭は、渡来銭(とらいせん)と呼ばれています。

この時代、日本では、天皇や貴族を中心とする朝廷も、武士の政権である幕府も、銭を発行していませんでした。それでも中国の銭は、人々の手から手へ渡っていきます。外国で作られたお金を、なぜ受け取ったのでしょうか。

米や布で払うより、何が便利だった?

前の時代の日本では、米や絹、麻の布で値段を表し、支払いにも使っていました。そこへ12世紀半ば以降、中国から大量の銭が入ってきます。

米で払うなら、その米がどれだけあるかを量る必要があります。絹や布も、量を確かめなければなりません。銭は、基本的には1枚を1文(もん)として数えて使えました。「文」は、銭で金額を表すときの単位です。

銭なら、米や布の量をはかる代わりに、枚数を数えて支払えました。 貨幣博物館の図録によると、少額の買い物にも、大きな金額の取引にも使われています。

ただ、数えやすいだけで、どんな物でもお金になるわけではありません。品物を売る人が銭を受け取っても、その銭を次の買い物で使えなければ困ります。受け取った銭を、ほかの人への支払いにも使えることが大切でした。

銭は、日々の買い物や旅先の支払いに使われるようになりました。さらに13世紀以降には、米などの生産物の代わりに、銭で年貢を納めることも広がります。年貢は、土地から取れた米などを領主に納める負担です。

地方の市場(いちば)で米などを売り、受け取った銭を年貢として納める。こうすれば、米そのものを遠くまで運ぶより、荷物を軽くできます。年貢を受け取る側にも銭が渡り、銭で支払う場面がさらに増えていきました。

幕府や朝廷が認めたのは、広まった後

鎌倉幕府や朝廷は、初めから中国の銭の使用を認めていたわけではありません。人々の間に広まってから、その使用を認めました。

銭の使われ方を、時代名と一緒に並べてみましょう。

時代・年代の目安 政治の担い手 銭の使われ方
平安時代の終わりごろ。12世紀半ば(1100年代半ば)以降 京都の朝廷 中国から銭が大量に入り、人々が使い始める
鎌倉時代。13世紀(1200年代) 朝廷と鎌倉幕府 使用が広まり、幕府や朝廷も認める。年貢にも銭を使うようになる
室町時代後半から戦国時代へ。15世紀後半(1400年代後半)以降 室町幕府と各地の大名 国内外で私的に作られた銭も混ざり、種類や形で受け取りを選ぶ動きが広がる
戦国〜安土桃山時代。16世紀後半(1500年代後半) 織田信長などの大名 中国からの供給が途絶える。西日本の大きな取引では、銭の代わりに米で払う動きも起きる

中国の銭が広まったときは、人々が使うのが先で、幕府や朝廷が認めるのは後でした。日本の国が作った銭でなくても、買い物や年貢で受け取ってもらえたのです。

ただし、この表は数百年にわたる変化をまとめたものです。最初から最後まで、同じ銭が同じように受け取られたわけではありません。

どの銭でも、1枚は1文だった?

取引が増えると、支払いに使う銭も、もっと必要になります。ところが、中国から入ってくる銭は減っていきました。国内では、中国の銭をまねて作った銭も使われるようになります。中国からも、私的に作られた銭が入ってきました。

私的に作るとは、朝廷や幕府などが発行するのではなく、民間で作るということです。すでに使われていた銭をまねたものなので、「偽物でもお金になるの?」と不思議に思うかもしれません。

作った人が「これも1文です」と言うだけで、その銭が通用したわけではありません。銭を受け取る人にとって大切なのは、次の支払いでも使えるかどうかでした。銭が足りないなか、まねて作られた銭も流通したことは、受け取る側にもそれを支払いに使う理由があった、と考えられます。作り手だけでなく、受け取って使う人々が、その銭の流通を支えていたのです。

まねて作られた銭には、文字がはっきりせず、小さく薄いものも多くありました。15世紀後半以降、人々は銭の種類や形を見て、受け取るかどうか、どれだけの値打ちとして扱うかを選ぶようになります。この選り分けを、撰銭(えりぜに)といいます。

同じ枚数を差し出しても、同じ金額の支払いとして受け取ってもらえるとは限らない。こうなると、枚数を数えるだけでは支払いが済みません。銭の扱いは地域や時期によっても違い、取引は混乱しました。

幕府や大名は、受け取り方を決めようとした

室町幕府や大名は、銭を使う取引が滞らないよう、どの銭をどう扱うかという命令を繰り返し出しました。撰銭令(えりぜにれい)と呼ばれる命令です。受け取る人々の判断に加え、政治を担う側も、銭を受け取るときの共通のルールを作ろうとしたのです。

その内容は、命令を出した人や時期によって異なります。室町幕府は、とくに質の悪い銭の使用を禁じる一方、受け取りを断られやすい銭でも、一定の割合までならほかの銭に混ぜ、1枚を1文として使うように定めました。1506年の命令では、永楽銭などやひび割れた銭を、100文の支払いに32枚まで混ぜてよいとしています。これは、銭どうしを交換する比率ではなく、支払いに混ぜてよい割合を決めたものです。

1569年に織田信長が出した撰銭令も、銭の扱いを定めた例の一つです。信長は、それまで禁じられていた銭も使えるとし、銭によって価値が異なることを認めて、交換するときの比率を決めました。

銭の受け取り方を決める一方で、支払いに使うお金そのものも変わっていきます。16世紀後半には中国からの銭の供給が途絶え、1570年代の西日本では、土地など大きな取引の支払いに米が使われました。金や銀も、高額の取引に使われるようになります。

今日の研究結果

中国の銭は、枚数を数えて使え、買い物や年貢で受け取られるようになりました。日本の朝廷や幕府は、自ら銭を発行しなくても、人々の間に広まった銭の使用を後から認めました。

ただし、種類や質の違う銭が混ざると、受け取る側が選ぶようになり、1枚を同じ1文として使いにくくなりました。幕府や大名も、どの銭を受け取り、どう数えるかを決めようとしました。

「誰が作ったお金か」に加えて、「受け取った人が、次にどこで使えたか」。中国の銭が日本で使われた理由を考えるときは、その先の支払いまで追ってみてください。

教授のコメント

お店があなたの100円玉を受け取るのは、なぜだと思いますか。国が作ったからか、みんなが受け取るからか。中世の銭は、国が作っていなくても通用していました。

出典

  • 日本銀行金融研究所貨幣博物館「日本貨幣史・中世/近世」。12世紀半ば以降の銭の流入、13世紀の普及と鎌倉幕府・朝廷による使用の容認、国内の模鋳銭、16世紀後半の供給途絶と1570年代の西日本の大口取引での米による支払いを確認。2026-09-29に本文確認
  • 同館「常設展示図録・渡来銭のはじまり」(20ページ)。朝廷・幕府が銭を発行しなかったこと、基本的に1枚を1文として数え、米や絹のように量をはからず少額・高額の取引に使えたことを確認。2026-09-29に本文確認
  • 同館「常設展示図録・銭貨の浸透」(22ページ)。日常や旅先での使用、地方の市場で生産物を売って得た銭で年貢を納めたこと、運ぶ荷物が軽くなったことを確認。受け取った人が次の支払いに使えるという本文の説明は、これらの使われ方から仕組みを説明したもの。2026-09-29に本文確認
  • 同館「常設展示図録・撰銭と撰銭令」(25ページ)。まねて作られた銭の形状、地域・時期による扱いの違い、室町幕府と1569年の織田信長の撰銭令の違いを確認。受け取って使う人々が流通を支えたという説明は、銭不足のもとで私的な銭も流通し、受け取りや交換比率が選ばれたことから仕組みを説明したもの。個々の作り手が最初に誰へ渡したかは扱っていない。命令の原文ではなく図録の解説を参照。2026-09-29に本文確認、2026-09-30に再確認
  • 同館「常設展示図録・鉱山開発と金貨・銀貨」(28ページ)。16世紀の金銀の生産増加と、高額取引での使用を確認。2026-09-29に本文確認
  • 国立歴史民俗博物館「第2展示室」。平安から安土桃山までの時代の流れ、鎌倉時代の京都と鎌倉という二つの政治的中心、15〜16世紀の大名による支配を確認。表の政治の担い手は、この回に関係するものを挙げた。2026-09-29に本文確認
  • 平凡社「改訂新版 世界大百科事典」峰岸純夫「撰銭令」(コトバンク掲載)。1506年以降の室町幕府の命令で、明銭やひび割れ銭を100文につき32枚まで混ぜ、良質な銭と同じ価値で使うよう定めたことを確認。混ぜてよい割合と、信長の命令における交換比率を区別して記述した。2026-09-30に本文確認

本文の制度の数値は 2026-09-29 に確かめたものです。改定されることがあるので、申込や手続きの前に公式の記載をご確認ください。

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