財部(たからべ)教授のお金の研究室

日本のお金の歴史/第 7 回

1946 年、預金が引き出せなくなった。物価が上がったからなのか、別の理由か?

物価が上がって起きることと、命令で引き出しが制限されることを分け、預金を支えているものを確かめる

2026年10月7日に公開約7分で読めます

1946年、日本では、銀行に預けたお金を自由に引き出せなくなりました。戦争が終わった直後で、物の値段も急に上がっていた時期です。では、物価が上がると、預金は引き出せなくなるのでしょうか。

第5回では、書かれた額が同じでも、買える量は変わることを見ました。第6回では、お札が支払いに使えるのは、法律の定めによることを見ました。この回は、預金を別の視点から見ます。そのお金を、引き出せるかどうかです。

「インフレが進むと、預金封鎖が来る」。そんな話を耳にすることがあります。根拠として持ち出されるのが、1946年の日本です。物価が急に上がるなかで、預金を自由に引き出せなくなりました。では、物価が上がると、預金は引き出せなくなるのでしょうか。

1946年に、何が起きた?

1946年2月、政府は2つの命令を出しました。金融緊急措置令と日本銀行券預入令です。どちらも、議会で話し合って決めた法律ではありません。政府が先に出し、あとから議会に認めてもらう形の命令でした(勅令といいます)。日本銀行は、その中身をこう説明しています。

  • 5円以上のお札は、銀行などに預けなければならない(当時は5円や10円もお札でした)
  • 預けたお札は、それまでの預金と一緒に、自由には引き出せないようにする(封鎖)
  • 引き出せるのは、生活費や事業に使うお金などに限り、銀行は新しいお札で渡す

これが、いわゆる「新円切り替え」です。新しいお札を順に出すまでの間は、古いお札に証紙という紙を貼って、新しいお札の代わりにしました。

日本銀行は、この措置の目的を、戦争の直後に進んでいたインフレーション(インフレ)を止めるため、と説明しています。手元のお金や預金を自由に使えなくすれば、買い物に回るお金が減り、値上がりを抑えられると考えたのです。物価が上がって自然に引き出せなくなったのではなく、物価の上昇を抑えようと、政府が命令で引き出しを制限したのでした。

預金の封鎖には、もう一つの面がありました。同じころ政府は、財産の多い人に一度だけかける税(財産税)を準備していました。預金を封鎖しておけば、誰がいくら持っているかを確かめられ、税を取りやすくなります。研究者は、封鎖にはこの意味もあったと分析しています。

財産税で集めたお金は、戦争中にふくらんだ国の借金を減らすのに使う計画でした。ただ、実際には、その大半が、国の毎年の支出の足りない分を埋めるのに使われました。

物価が上がると、預金はどうなる?

物価が上がっても、預金が引き出せなくなるわけではありません。減るのは、同じ金額で買える量です。第5回で、明治の紙幣と米で見たとおりです。

1946年からの数年間は、引き出しの制限と物価の上昇が重なりました。預金の封鎖は1948年まで続きました。研究者は、終戦から4年余りで卸売物価が約65倍になり、預金の実質的な値打ちは失われたとまとめています。引き出せない間に、その預金で買える量も大きく減っていったのです。

銀行がつぶれたときと、何が違うの?

預金が引き出せなくなる場面として、銀行がつぶれる(破綻する)ことを思い浮かべる人もいるでしょう。破綻は、銀行が預金を払えなくなることです。1946年は、国が命令で引き出しを制限したことでした。止まる理由も、止める側も違います。

今の日本には、預金保険制度があります。銀行などが破綻したとき、預金を決まった範囲で守る仕組みです。どこまで守られるかは、預金の種類によって違います。

ただし、預金保険が守るのは、銀行が破綻した場合です。国が引き出しを制限する場合のための制度ではありません。

引き出せるのは、何が支えているから?

第1回で、お金を見るときの問いを3つ挙げました。その3つ目は、「その状態を、誰がどうやって支えているか」です。この問いを、預金について考えてみます。

ふだん預金を引き出せるのは、銀行が払い戻すと約束していて、引き出しを制限する決まりが無いからです。そのうえで、銀行が破綻して約束が守られなくなったときに備えて、預金保険があります。

1946年に変わったのは、引き出しを制限する決まりのほうでした。そのときは、政府が先に出す命令で、その決まりを作りました。今の憲法は、人の財産をどう扱うかは、国会が作る法律で決めると定めています。そのため、今の日本で預金の引き出しを広く制限するなら、政府の命令を先に出すのではなく、国会で法律を作る必要があると考えられます。

引き出しが制限されたのは、昔の日本だけではありません。2001年のアルゼンチンでは、国が借りたお金を約束どおり返せなくなったときに、銀行の預金口座が封鎖されました。2013年のキプロスでは、銀行の危機のなかで、現金を引き出せるのは1つの銀行につき1人1日300ユーロまでとされました。2015年のギリシャでも、銀行が休業し、引き出せる現金は1日60ユーロまでになりました。ユーロは、ヨーロッパの多くの国で使われているお金です。1946年の日本は、戦争が終わった直後でした。この3つの国は、どれも戦争の直後ではありません。銀行や国のお金への信頼が大きく揺らいだときの措置です。

「預金封鎖が来る」と聞いたら、何を確かめる?

ここで見た例はどれも、戦争の直後か、銀行や国への信頼が大きく揺らいだときのものでした。ふだん預金を引き出せるのは、銀行の約束があり、引き出しを制限する決まりも無いからです。ただ、預金保険があっても、「銀行に置いておけば、何があっても大丈夫」とまでは言えません。そして、日本でまた起きるかどうかは、これらの例からは決められません。

何がそれを支えているのかが分かっていれば、「預金封鎖が来る」といった話を聞いたときに、次の3つを聞き返せます。

  1. その話は、残高、買える量、引き出せる条件のどれの話か。
  2. 引き出しを制限するなら、どんな法律で、誰が決めるというのか。
  3. 1946年や外国の例と、どの条件が同じで、どの条件が違うと言っているのか。

話の続きが、別の商品にお金を移す勧めになっていることもあります。移すかどうかを決める前に、この3つを一つずつ確かめる時間はあります。

今日の研究結果

物価が上がるだけでは、預金が引き出せなくなることはありません。減るのは、同じ残高で買える量です。1946年に預金が自由に引き出せなくなったのは、物価が上がって自然にそうなったのではありません。日本銀行がインフレを止めるためと説明する措置として、政府が命令で引き出しを制限したからです。同じころ準備された財産税を取りやすくする意味もあった、と研究者は分析しています。ふだん預金を引き出せるのは、銀行の約束があり、引き出しを制限する決まりが無いからです。預金保険があっても、何があっても大丈夫とまでは言えません。一方で、日本でまた起きるかどうかは、過去の例からは決められません。何が支えているのかが分かっていれば、聞いた話を自分で確かめ、どうするかを自分で決められます。

教授のコメント

「銀行が破綻するらしい」と友人から聞いたとき、あなたはどう動きますか。周りに流されずに、確かめてから決められるでしょうか。

出典

  • 日本銀行「「新円切り替え」とは何ですか?」。第二次大戦直後のインフレ進行を阻止するために、政府が1946年2月に金融緊急措置令および日本銀行券預入令を公布し、5円以上の日本銀行券を預金・貯金・金銭信託として強制的に金融機関に預入させ、既存の預金とともに封鎖のうえ、生活費や事業費などに限って新銀行券による払出しを認める非常措置を実施したことを確認。払出しの上限額はこのページに無いので本文に書いていない。「当時は5円や10円もお札でした」は「5円以上の日本銀行券」の記述からの読み。2026-10-05に本文確認
  • 国立国会図書館 日本法令索引「金融緊急措置令」。昭和21年2月17日勅令第83号で、法令の形式が勅令であること、1946年6月に第90回帝国議会へ「承諾ヲ求ムル議案(勅令)」として提出され7月に成立(承諾)したことを確認。2026-10-05に本文確認
  • e-Gov法令検索「日本国憲法」第29条。「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」を確認。今の日本で引き出しを広く制限するには国会で法律を作る必要がある、という本文の記述はこの条文からの読みで、具体的な法律の有無は確かめていない。2026-10-05に本文確認
  • 国立印刷局「お札の歴史(昭和)」。1946年に日本銀行券預入令によりお札に証紙を貼付して新券の代用としたこと、金融緊急措置令の公布で新券(A券)の発行が決まり、1946年から1948年にかけてA券6券種を順次発行したことを確認。2026-10-05に本文確認
  • 関野満夫「敗戦後日本の巨額の戦時国債はどのように処理されたのか」(財務総合政策研究所の講演資料、2022年)。金融緊急措置が急速なインフレへの対処とともに、個人・法人の金融資産を確定・捕捉して財産税を円滑に実施する面を持っていたこと、財産税が国債償却・財政再建のための一回限りの税として構想され1946年11月に成立したこと、財産税等の収入の大半は一般会計繰入(歳入補填)に充当され国債償却には充当されなかったこと(28枚目)、預貯金封鎖が1946年3月から1948年7月まで続き、卸売物価が1945年8月から1949年12月に65倍となって預貯金資産の実質価値が失われたこと(34・48枚目)を確認。本文では研究者の分析として書いた。2026-10-05に本文確認
  • 金融庁「預金保険制度」。預金保険制度の目的が、金融機関が破綻した場合に預金者等の保護や資金決済の履行の確保を図り信用秩序を維持することであること、決済用預金は全額、一般預金等は預金者1人当たり1金融機関ごとに元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護され、超える部分は一部支払われない可能性があることを確認。2026-10-05に本文確認
  • 日本貿易振興機構(ジェトロ)「アルゼンチン経済、不安定化までの推移と要因(3)」。2001年のデフォルト時に国民が保有していた市中銀行の預金口座が封鎖されたことを確認。2026-10-05に本文確認
  • Central Bank of Cyprus「The Enforcement of Restrictive Measures on Transactions in case of Emergency Law of 2013」(2013年3月28日。非公式英訳)。現金の引き出しが1人1金融機関あたり1日300ユーロ(または外貨で同額)を超えてはならないとする一時的な制限を確認。2026-10-05に本文確認
  • 河合正弘「2020年代の国際通貨システム」(財務総合政策研究所『フィナンシャル・レビュー』)。2015年にギリシャが資本規制と銀行の休業の導入に追い込まれ、市民が一日に預金口座から引き出せる現金の上限が60ユーロとされたことを確認(令和5年第3号、通巻第153号、2023年6月、39ページ)。2026-10-05に本文確認

本文の制度の数値は 2026-10-05 に確かめたものです。改定されることがあるので、申込や手続きの前に公式の記載をご確認ください。

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