財部(たからべ)教授のお金の研究室

日本のお金の歴史/第 6 回

日本銀行のお札は、いつまで金と交換できて、いつからできなくなった?

銀と交換できるお札から、交換の約束のないお札になるまでをたどる

2026年10月7日に公開約6分で読めます

一万円札を日本銀行に持っていっても、金とは交換してもらえません。でも、お札はかつて金と交換できたと聞きます。いつまで交換できて、いつからできなくなったのでしょう。そして今、お札が増えすぎないための歯止めは、何なのでしょう。

第5回の終わりに、問いを一つ残しました。今のお札に、金貨や銀貨と交換する約束はありません。では、増やしすぎないための歯止めは何なのか、という問いです。

その答えに行く前に、お札と金の関係をたどります。「お札はかつて金と交換できた」と聞いたことがある人もいるでしょう。それは、どのお札の話なのでしょうか。

最初のお札は、銀と交換できた

第5回で見たとおり、日本銀行が最初のお札を出したのは1885年です。このお札は、日本銀行に持っていけば、書かれた額の銀貨と交換してもらえる「日本銀行兌換銀券(だかんぎんけん)」でした。金ではなく銀だったのは、当時の日本が蓄えていたお金が銀だったからです。

1897年、貨幣法という法律で、1円を金0.75gと決めました。お札と交換する相手が、銀から金に変わったのです。欧米の国々は、すでに金を基準にお金の値打ちを決めていて、日本もそれにならいました。1899年からは、名前から「銀」を外した「日本銀行兌換券」が出ます。

交換は、いつ止まった?

ここまでの流れも含めて、年の順に並べます。制度が変わった年と、お札の名前が変わった年は別なので、行を分けます。

年 何が起きたか 交換できる相手 お札の名前
1885年 日本銀行が最初のお札を発行 銀貨 日本銀行兌換銀券
1897年 貨幣法で、1円を金0.75gと決める 金貨 日本銀行兌換銀券のまま
1899年 名前から「銀」を外したお札を発行 金貨 日本銀行兌換券
1931年 金貨との交換を停止 なし 日本銀行兌換券のまま
1942年 日本銀行法で、交換を約束しない制度へ なし 日本銀行券

日本銀行のお札と金との交換は1931年に止まり、1942年に、交換を約束しない制度へ移りました。 1931年には、世界的な不況のなかでイギリスが金との交換をやめ、日本も同じ年の12月に交換を止めました。

1942年の日本銀行法で、お札から金と引き換えると書いた文言が消え、名前は「日本銀行券」になりました。交換の約束をやめ、お札の量を日本銀行が調節する仕組みを、管理通貨制度といいます。

一万円という額のお札が初めて出たのは、1958年です。その後、絵柄は何回か変わりましたが、どの一万円札も、金と交換できない時代のお札です。「一万円札がかつて金と交換できた」ことは、一度もありません。

交換できないなら、いくらでも刷れてしまうのでは?

第5回の村の例で見たように、品物が増えないのに紙幣だけが増えれば、同じ紙幣で買える量は減りやすくなります。金と交換する約束は、その歯止めの一つでした。第5回の金貨100枚の例のように、金庫に金貨が100枚しかないのに、金貨1枚と交換できるお札を300枚出せば、200人には渡す金貨がありません。だから交換の約束があるあいだは、金庫の金に見合う分までしかお札を出しにくかったのです。約束をやめた今、何が歯止めなのでしょう。

金の量という枠は、もうありません。代わりに置かれているのは、日本銀行の仕事です。今の日本銀行法(1997年に全面的に改正されたもの)は、日本銀行の目的を、物価の安定を図ることと定めています。日本銀行は、金利などを通じて世の中のお金の出回り方に働きかけ、物の値段が全体として大きく動かないようにしようとします。

日本銀行自身も、今の日本を含む多くの国では、お金への信頼は、中央銀行が持つ金などで直接支えられるのではなく、物価の安定を図ることで保たれる、と説明しています。

ただし、法律が日本銀行に求めているのは、物価が大きく動かないように手を打つことです。物価が動かないと約束しているわけではありません。手を打っても、物価が大きく上がることはあります。

「一万円札の値打ち」を聞かれたら、どう答える?

第3回で、お店が100円玉を受け取るのはなぜか、と聞きました。国が作ったからか、みんなが受け取るからか。あなたはどう考えたでしょうか。法律の側から見ると、答えの一つはこうです。

金と交換できないのに、お店は一万円札や100円玉を受け取ります。理由の一つは法律です。法律は、日本銀行のお札を、何枚でも支払いに使えるお金(法貨)と定めています。硬貨は、同じ種類で一度に20枚までです。21枚目からは、お店が受け取らなくてもよいのです。

ただし、これは「お店は必ず受け取らなければならない」という意味ではありません。前もって別の払い方を決めてあれば、その決め事が優先します。家賃を「振込で払う」と契約に書くのは、その一つです。法律が保証しているのは、こうした決め事が無いときに、お札が支払いの手段になることです。

では、一万円札の値打ちは何かと聞かれたら、どう答えるでしょうか。次の2つに分けると、答えやすくなります。

  1. 1万円として支払いに使える理由は、何によるか。
  2. 1万円で買える量は、何によって変わるか。

どちらも、この回と第5回の中に答えがあります。

今日の研究結果

日本銀行のお札は、1885年に銀貨と交換できる形で始まり、1897年からは交換の相手が金になりました。金との交換は1931年に止まり、1942年の日本銀行法で、交換を約束しない制度へ移りました。一万円札は、1958年に初めて出たときから、金と交換できないお札です。今は交換の約束ではなく、日本銀行が物価の安定を図ることが法律で定められています。お札が1万円として払えるのは法律の定めによりますが、その1万円で何が買えるかは、物価によって変わります。

教授のコメント

財布のお札と、スマホや口座の残高。どちらも金とは交換できません。では、法律で支払いに使えると決まっている範囲も、同じでしょうか。

出典

  • 日本銀行金融研究所貨幣博物館「日本貨幣史・近代」。1885年の最初の日本銀行券が銀貨と交換できる兌換銀券だったこと、蓄積していた正貨が銀だったため銀本位制になったこと、1897年の貨幣法で金0.75g=1円とし金本位制を確立したこと、日本銀行券が「日本銀行兌換銀券」から金貨と交換できる「日本銀行兌換券」になったこと、1931年に世界恐慌の影響でイギリスが金本位制から離脱し日本も同年12月に金貨兌換を停止したこと、1942年の日本銀行法で管理通貨制へ移行し通貨の発行量は中央銀行が調節することになったこと、券面の金貨引換文言が消え「日本銀行兌換券」が「日本銀行券」になったことを確認。表の1897年の行の交換できる相手(金貨)は金本位制の確立からの読みで、1897〜1899年に兌換銀券が実際にどう交換されたかの記述は資料に無い。2026-10-05に本文確認
  • 国立印刷局「お札の歴史(明治)」。1899年に金本位制導入に伴い「日本銀行兌換券」の発行が始まったことを確認。同「お札の歴史(昭和)」。1942年から兌換文字を削除した新様式の銀行券が順次発行されたことを確認。2026-10-05に本文確認
  • 日本銀行「一万円券」。最初の一万円券の発行開始日が1958年12月1日であることを確認。2026-10-05に本文確認
  • 日本銀行「個人の買い物や企業間の売買などの支払いにおいて、お札や硬貨は何枚でも使うことができますか?」。日本銀行法第46条第2項で銀行券が法貨として無制限に通用すること、硬貨は額面価格の20倍まで(一種類につき一度に20枚まで)法貨として通用することを確認。2026-10-05に本文確認
  • 日本銀行「1997年(平成9年)の日本銀行法改正(1998年施行)のポイントは何ですか?」。現在の日本銀行法は、1942年に戦時立法として制定された旧日本銀行法を全面的に改正したもので、第1条と第2条で物価の安定と金融システムの安定という2つの目的を定めていることを確認。2026-10-05に本文確認
  • 日本銀行「日本銀行はどのような業務を行っていますか?」。金融政策は、金融市場の金利などに影響を及ぼすことを通じて経済・物価に働きかけるものであることを確認。2026-10-05に本文確認
  • 日本銀行「中央銀行の財務は、通貨の信認に影響しないのですか?」。通貨への信認は中央銀行が保有する金等の資産によって直接支えられるものではなく、適切な金融政策によって物価の安定の実現を図ることを通じて担保されることを確認。同「日本銀行の目的は何ですか?」。日本銀行の目的が物価の安定を図ること(日本銀行法第1条第1項、第2条)であることを確認。2026-10-05に本文確認
  • 日本銀行金融研究所「「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」報告書」(『金融研究』第39巻第2号、17ページ)。強制通用力の定めは任意法規にとどまり、当事者間の合意で法貨による弁済を排除できること、債権者に法貨の受領を義務づける公法上の規定はないことを、シラバス作成時(2026-09-30)に確認。2026-10-05はPDFの本文を機械で読めず再照合していない
  • 金庫の金貨100枚・お札300枚は、第5回と同じ仕組みを見るための仮の例で、日本銀行の実際の保有量や発行量ではない

本文の制度の数値は 2026-10-05 に確かめたものです。改定されることがあるので、申込や手続きの前に公式の記載をご確認ください。

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