日本のお金の歴史/第 8 回
電子マネーの 1,000 円、預金の 1,000 円、お札の 1,000 円。同じお金で、現金に戻せる?
お札、預金、電子マネーの同じ1,000円を、3つの問いで見比べる

スマホの電子マネーに1,000円、銀行の口座に1,000円、財布に1,000円札。どれも「1,000円」と表示されていて、同じように買い物に使えます。では、この3つは同じお金なのでしょうか。
第7回では、ふだん預金を引き出せるのは、銀行が払い戻すと約束していて、引き出しを制限する決まりも無いからだと確かめました。この回は、お札と電子マネーについても、同じように確かめます。1,000円札と、銀行の口座の1,000円と、電子マネーの1,000円。この3つを、第1回の3つの問いで比べてみます。
同じ1,000円を、3つ並べる
ここでいう電子マネーは、先にお金を払って入金し、その分だけ使えるものです。商品券やプリペイドカードと同じ仲間で、法律では前払式支払手段(まえばらいしきしはらいしゅだん)と呼ばれます。
仮の条件で比べます。1,000円札を1枚、手数料なしで引き出せる普通預金に1,000円、ふだんは払い戻しのない電子マネーに1,000円を持っているとします。
| 見るところ | 1,000円札 | 普通預金 | 電子マネー |
|---|---|---|---|
| 誰が発行や記録をする? | 日本銀行が発行する | 預けた銀行が記録する | 発行した会社が記録する |
| どこで使える? | 円の支払いに広く使える | 引き出すか、振込や引き落としで使う | 発行した会社が決めた店やサービス |
| この条件で、今日現金にできる額 | 1,000円 | 1,000円 | 0円 |
同じ1,000円でも、現金に戻せるかどうか、いくら戻るかは、お金の種類と条件で違います。 表の金額と条件は、仕組みを見るための仮の例です。
お札は、第6回で見たとおり、法律で、何枚でも支払いに使えると定められています。預金は、銀行が払い戻すと約束していて、引き出せばお札や硬貨になります。電子マネーの残高は、発行した会社の記録の上にあり、使える場所もその会社が決めます。
電子マネーは、なぜ現金に戻せない?
電子マネーを現金に戻せないのは、発行した会社が勝手に決めたことではありません。法律で、発行した会社は原則として、電子マネーの残高を、持っている人に払い戻してはいけないと決まっているのです。
ただし、例外もあります。払い戻す額が少ないときなど、発行の仕事に差し支えない場合として決められた場合です。手数料を差し引いて払い戻せる電子マネーもあります。「電子マネーなら、いつでも0円」ではありません。表の0円は、ふだんは払い戻しのないものに限った例です。
使えなくなったら、残高はどうなる?
では、発行した会社が電子マネーをやめたら、残っている残高はどうなるのでしょう。これも、同じ法律で決まっています。
この場合、会社は持っている人に払い戻さなければなりません。払い戻すときは、60日以上の申し出の期間を、ホームページや新聞、店頭の掲示などで知らせます。持っている人は、その期間内に申し出れば払い戻しを受けられます。期間内に申し出ないと、この手続きでは払い戻しを受けられません。
法律は、会社がつぶれたときの備えも決めています。使われていない残高が一定の額を超えると、発行した会社は、その半分以上にあたる額を、国の供託所(きょうたくしょ)に預けておかなければなりません。会社がつぶれたとき、電子マネーを持っている人は、ほかにお金を貸している人より先に、そこから払ってもらう権利を持ちます。
第7回で見たとおり、預金には、銀行が破綻したときに決まった範囲で預金を守る預金保険があります。電子マネーを支えているのは、それとは別の決まりです。
どれでも買い物できるなら、違いを気にしなくていい?
ふだんの買い物では、ほとんど困りません。コンビニで1,000円の買い物をするとき、お札で払っても、電子マネーで払っても、結果は同じです。
違いが出るのは、次のような場面です。使いたい店で、その電子マネーが使えないとき。家賃の振込や、現金しか受け取らない店のように、現金や預金が必要になったとき。そして、その電子マネーの利用が終わるときです。
財部教授の30秒チェック
電子マネーに入金する前に、次の3つを確かめてみてください。
- どこで使えるか。
- 現金に戻せるか。戻せるなら、手数料はかかるか。
- 有効期限があるか。
似たことが起きたとき、何を手がかりにする?
このゼミでは、国が作った銭が受け取られなくなった時代、同じ紙幣で買える米が半分になった時代、預金を引き出せなくなった時代を見てきました。この先、まったく同じ出来事が起きるわけではありません。それでも、形を変えて、似た場面に出会うことはあります。
例えば、使っている電子マネーのサービスが終わると知らされる日が来るかもしれません。「銀行が危ないらしい」「お金の値打ちがなくなる」と、身近な人から聞く日もあるかもしれません。そのとき、周りと同じように慌てて動くのか。それとも、立ち止まって、次の3つを自分に問いかけるのか。
- それは、何と、どれだけ交換できるのか。
- どこで、誰が受け取ってくれるのか。
- その状態を、誰がどうやって支えているのか。
例えば、「あの銀行が危ないらしい」と聞いたとき、私なら3つの問いを、次のように置き換えて考えます。
1つ目は、自分の預金は今いくらあって、引き出せばいくらの現金になるか。2つ目は、今日もその口座から、引き出しや振込ができるか。できるかどうかで、急いで動く必要があるかが変わります。3つ目は、銀行がつぶれたとき、自分の預金は預金保険で守られる範囲に入っているか。預金保険は、1つの銀行につき1人あたり元本1,000万円とその利息までを守ります。決済用預金という種類なら、全額が守られます。
そのうえで、噂そのものも確かめます。誰が、何を根拠に言っているのか。銀行や金融庁は、何か発表しているのか。
すぐに答えられない問いがあっても、大丈夫です。つまずきやすいのは、3つ目かもしれません。自分の預金がどの種類で、守られる範囲に入っているかは、ふだん気にすることが少ないからです。答えられない問いが見つかったら、そこから調べ始めればいいのです。
第1回では、財布のお金を一つ選んで、この3つを考えました。そのとき答えに迷った問いに、今は答えられるでしょうか。どの残高をどう持ち、どう使うか。似たことが起きたときに、どう動くか。その答えは人によって違います。それを出すのは、あなた自身です。
今日の研究結果
お札、預金、電子マネーの残高は、どれも「1,000円」と表示されますが、発行や記録をする人、使える場所、現金に戻せるかどうかと、いくら戻るかが違います。お札は日本銀行が発行し、法律で支払いに使えると定められています。預金は銀行が記録し、引き出せば現金になります。電子マネーは発行した会社が記録し、法律で、原則として払い戻しをしてはならないと定められています。利用が終わるときには払い戻しの手続きがあり、会社がつぶれたときに備えて、残高の一部を国の供託所に預ける決まりもあります。第1回の3つの問いは、昔のお金だけでなく、今の預金や電子マネーにも、同じように使えます。この先、似たことが起きたときにも、慌てず確かめてから決めるための手がかりになります。

